百合漫画ソムリエ通信2024年4月号(ゆりなつ/雑草譚/羣青)

cubbit
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 好きな百合漫画毎月発表ドラゴンである私だが、4月に入ったのに記事を書くのをすっかり忘れていた。また個人的に気に入っている百合漫画を唐突に紹介していきたい。

 毎回3作品を紹介するスタイルにしているのは、あえて毛色の異なる作品をまとめて紹介することで、自分にあった作品を見つけてもらいたいからである。1作品はゆるめ、2作品目は真ん中くらい、3作品めはハードめ、という、なんとなくのフォーマットがある。この記事の3作品目の「羣青」を読んで、そのあとに最初の「ゆりなつ」を読むと、寒中水泳のあとの温泉みたいな感じになって、何かが整うかもしれない。

ゆりなつ/もちオーレ

 とある小さな民宿を切り盛りする女将とその五姉妹。一家全員どこかちょっとおかしいのだが、そこにだいたい全員ちょっとおかしい雰囲気の客が泊まりにきてドタバタする、ひと夏のソリッドシチュエーション・コメディ。あくまでギャグテイストとはいえ、しっかりと恋愛描写があるガチ百合漫画でもある。とてつもないペースでいろいろな種類のカップル(?)がオムニバス的に供給されていくので、きっと気に入ったペアが見つかるのでは。個人的には次女と長女の組み合わせが好きかも。恋愛描写があまりにギャグ的に軽々しく消費されていくので、もう少し真面目なやつが読みたい人だけは注意。全3巻完結済み。

雑草譚/結川カズノ

 『雑草譚』と『軒下の吸血鬼』というふたつの中編からなる作品集。可愛くてクラスの人気者である「ひなちゃん」と「私」は、ふたりだけの「川のそばの秘密の場所」を共有していた。しかしその見せかけの小さな王国は、歯に衣着せぬ転校生によって暴かれてゆく。子どもらしい純粋な残酷さと、身勝手な憧れ、剥き出しのプライドの裏に隠された劣等感、そして独占欲と一体の自覚なき恋愛感情。そういった幼くも生々しい感情を、冷たく、そして美しく描く雰囲気がとても好きだ。個人的にも何度か読み返している、とくに気に入っている作品のひとつである。

羣青/中村珍

 激しいDVの末に思い詰め、かつて自分を慕っていた女性と共謀して夫を殺害した女。自分への好意を利用し殺人までさせた相手との、冷たい雨の中を彷徨う何らあてのない逃避行が始まる。これはもう作品として好きや嫌いで括れるようなものではなくて、否が応でも心に刻まれてしまう古傷に近い。作者はこの作品の連載中に編集者からの壮絶なパワハラがあり、その意味でも凄まじいことになっていたらしい。いろいろとあまりに重い作品なのではっきりいってお勧めはしにくいのだが、よかったら精神的に元気なときを選んでこの作品を読み、苦悩と絶望を私と共有してほしい。上中下の全3巻完結済み。