坂本龍一 トリビュート展と、Micro Ambient Music Festival

はいファイ
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3連休の初日は、スプラトゥーン3の追加コンテンツ『サイドオーダー』をクリアしたり、二日目の昼にはマックデリバリーでギリギリでカービィをゲットできたりといったことがあったのですが、まぁそれは置いておいて(スプラについては後で書きたい気持ちもあるけど)。

24日は、前から行きたいと思っていた、初台はオペラシティ内のICCにて催されている『坂本龍一トリビュート展』に行ってきました。トリビュート展、なので、回顧的な内容ではなく、どちらかというと教授の残してくれたピースをもとに現在の視点で改めて作品として整えたものたちという趣。展示自体はコンパクトなのだけど(ICCの特別展示スペースはもともと広くないので)、その中で空間的に、教授の息遣い、それこそ残してくれた物ものの残響が、そこに生きて響いているかのようなつくりとなっていました。

そして夕方からは、この展示の関連イベントとして企画されたコンサート、『Micro Ambient Music Festival』に参加。もともと、まさに坂本龍一への追悼トリビュートとしてbandcampでのみ発表されたコンピレーションアルバム『Micro Ambient Music』。コンピへの参加アーティストは、アンビエント・ミュージックなどを好んで聴いている人にとってはとても豪華と言える内容なのだが、それは例えば教授の音源を使ったリミックスだとか、そういうものではなく。Micro、とあるように、教授の晩年は身近な環境の音をフィールドレコーディングして音楽に取り入れたり、コンサートでもピアノをプリペアドするのみならず、ガラスを叩いたり擦ったりという演奏をするという、その微細な「物音」にもフォーカスして「聴取すること」そのものへと言及するような活動を行っていた。このコンピは、教授と繋がりのあった人達が、そうした晩年の教授の実践と成果を受け継ぐような形で集い、インスパイア的に提供された音源を通して、広げていくという意思確認のようなコンセプトを持っている、と思う。ICCのトリビュート展でも、ダムタイプと制作した『Playback 2022』という、教授と繋がりのある世界中の16組のアーティストから、現地のフィールドレコーディングを送ってもらい、それをレコードに刻むという作品の展示に、大きく場所と空間を使っている。トリビュート展とMicro Ambient Musicは、そういう「次の世代のアーティストが、"世界の音"を通じて繋ぎ合い、教授のさらなる足取りを紡いでいく」という意思で一致したものなのだと思う。

Micro Ambient Musicの企画としては、京都の「しばし」で行われたレコードのリスニングイベントにも参加した。2023年のハイライトとも言えるような実に静謐で何にも代えがたい素晴らしい時間を過ごせたことが印象強く残っている。

今回は、コンピの参加者たちがICCに集って、3日間、3つの時間帯、ICC内の3つの会場で演奏を行うという、ICCという元々無料で入れるコンパクトな美術施設でやるとは思えないパワフルな企画。でも、音自体はまさにICCでやるべきとも言えるような、上記のコンセプトとも通底した、アンビエントで、微細で、メディアアートと近接しているとも言える「音楽フェス」だ。どの日、どの時間帯でどのアーティストを見るか大変悩んだけれど(一日通し券という手段もあったが)、今回見たのは以下3組でした。

蓮沼執太

蓮沼さん、ソロでの音色豊かな楽しいアンビエントだったり、フィルでの歌ものアンサンブルだったりと色々器用な方ですが、コンピレーションアルバムの音源にはとてもエクスペリメンタルな物音ノイズを提供していたので、今回のライブではどのようなパフォーマンスをしてくれるのかと思っていましたが、やってくれました。これぞまさにマイクロスコピックな、物音系音響。大きくない部屋で観客に囲まれて、台の上で金属の板を擦ったり、叩いたり、氷を転がしてみたり、といった音に、モジュラーシンセでドローンと断続的な発信音。途中からはiPhoneでちょっとしたメロディを響かせてみたりするところが蓮沼さんの持ち味。それでもこれはまさに、過去に今はもう無い六本木Superdeluxeとかで体験した、Ftarriレーベルの即興ライブとかを思い出すようなそれで。部屋の中で周りを無視して一人で延々と音と戯れてるようなそれは、聴いてる側もだんだんと意識が一人の内側に籠もっていくようで、そして世界がどんどんマイクロになり、物音それ自体をつぶさに観察しているような、蓮沼さんと意識が一体になるのか、あるいは自分さえもモノのセカイの一部のように感じてくるのか…そんな変性した意識に入っていく。音を聴く、ということの原初的な意味を考えさせられる。アンビエントという「無視することも出来る音楽」という定義とは少々違うそれは、真剣に、強靭に、(普段なら無視されるような?)音と敢えて向き合うことへ仕向ける時間とも言え、3組の中では一番コンセプトに忠実だったとも言える。

Christopher Willits

移動して第二会場。マットレスでアンビエントを聴くとか、最高ですよね。でも残念ながら、マットレス席はほとんど一日券を買ったガチ勢で占拠されておりました…(優先的に入場できるので)。うらやましい。でも寝ながら聴いてしまったら絶対時間がワープしていたと思う。クリストファー・ウィリッツはそういうアンビエントを作るアーティストなので。坂本龍一とのコラボアルバムも出しているウィリッツ。そのお姿は、半袖でイビザの海にでも居そうな朗らかさで、今にもハウスでもかけそうな雰囲気でしたが、その陽なイメージは、ギターをエフェクトした和音の美しいアンビエントとして、天上にでも昇るかのような暖かさとともに表現されておりました。初めにも終わりにも、何度も感謝の言葉を述べていたのも印象的。聴きながら、完全に半覚醒状態になりました。起きているのに目の中に脳内のカオスイメージが出力されてきて、その中にはスプラトゥーンの映像もありました(昨日やりすぎたせい)。

illuha

第三会場は、zAk氏の音響設計のもと、ステージは中心に備えられどこから聴いてもいい音が聴ける会場。illuhaは昨年のアルバム『tobira』もとても大好きだったので(年ベスに入れた)、とても楽しみでした。また、メンバーである伊達伯欣氏こそ、このMicro Ambient Musicというコンピレーションの発起人でもあります。

ここまで物音、天上系アンビエントときて、最後に生ドラムまで堪能できるとは(期待してたけど)。慎ましいメロディ、ゴソゴソプチプチとした音響、そこに山本達久氏の点描的でメリハリの効いたドラムプレイ、ブラシを擦ったり弦を使うことでドラム自体で新しい物音を生み出すかのよう。途中からは、iPhoneでフィールドレコーディングの音を流したりもしていた(蓮沼執太氏がiPhoneでメロディを流していたのとは対照的で面白い)。最後の曲では本日一番音楽らしい、といえば語弊があるけれど、生ベースも使って最も体が揺れてしまうような楽しい時間もあって、大変満たされました。

過去を思い、未来を感じ、そして微細な音に集中する時間からダイナミックな音の喜びまで、音という波によって開かれる広大な世界とネットワークをたっぷり味わえたような一日でございました。ICCのライブ会場としてのポテンシャル、かなりあるな…もっとやってほしいな…。