「すごい」技術や製品は普及しない(Vision Proをなぜアメリカまで買いにいくのか)

MIRO
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けっこういろいろなところで言っていることなんですが、「すごい」技術、「すごい」製品っていうのはあまり一般に普及しないんですよ

「すごい」ということば。辞書を引くと「びっくりするほど程度がはなはだしい。並外れている」なんて意味が載っています。まあ要するに驚きを示すことばであるわけです。でも、驚きって、長続きしないんですよ。人はすぐ新しいものには慣れてしまう。んで、慣れたら「すごい」という感情は失われてしまうのです。だから、単発で受け取るコンテンツとかには「すごい」は向いているんだけど、継続して使い続ける製品を買う動機にはなかなかならない。いや、まあ、技術マニアである私みたいなひとはそれだけでほいほい買っちゃうんですけど。

じゃあ、すげえたくさん売れたりするのはどういうものかっていうと、すごい、ではなくてキーワードは「便利」とか「楽」とかなんですよね。この技術/製品をつかうと、とっても便利。とっても楽。だから自分の生活がこんなふうに変わる。そういうのがイメージできると、みんなけっこうお高かったり新奇なものでも買うんです。ドラム式洗濯乾燥機とか、食洗機とか、ルンバとか。スマホもそうですよね。

だからVRヘッドマウントディスプレイがなかなか広く売れないのもこういうことなんだろうなーっておもっていたら、業界全体でもだんだん「すごい体験」から「便利」「楽」に製品のコンセプトがシフトしてきました。たとえば昨年9月に発表されたImmersed Visorは完全に、これひとつだけでディスプレイいっぱいつかえてべんりですよ、って製品です。

そんでですね

Appleが今度発売するVision Proのはなしです。これ、最初の発表時から、予約開始にあたってつい先日公開された説明ビデオに至るまで。よくみると徹頭徹尾「すごい体験」についてはつよく触れないようにしてあって、「この製品をつかうとこんなに便利ですよ」「こんなに楽ですよ」というメッセージングでまとめてあるんですよ。AR/VRはあくまでも手段であって、目的はコンピューティングを生活に溶け込ませることで便利にすること、というスタンスです。

VR HMDを「ゲーム機」として位置づけて体験のすごさをプッシュしているMeta Questのプロモーションとの一番わかりやすい違いはここじゃないかなとおもいます。AppleがVision Proのアプリに対してAR/VR/XR/MRアプリと呼ぶな、Spatial Computing Appと言え、などと規定しているのも、要はそこを差別化したいということなんでしょう。

自分がとくにAppleフリークというわけでもないのにお高いVision Proをわざわざアメリカまで行って買おうと思ったのは、実はこの製品のスタンスの違いが理由です。Appleが、本気で、「便利で楽」というコンセプトに振り切ってデザインしたHMD製品をつくってきた。これは、本当に日常生活で使ってみたら「便利で楽」になるのだろうか?第一世代の製品では完全な実装は無理だとしても、そのあるべき未来は、はたしてこの延長線上にくみ取れるだろうか?

そこを見極めたい、っておもったんですよね。で、見極めるためには、店頭のデモ機を触るとか人からちょっと借りてみるとかではだめです。それではまったくわからない。実際に、自分が、まさに日常生活で使ってみて、コストとベネフィットをみっちり体感してみないと評価しきれない。だから、買いに行くしかないんです。

まあそんなわけで、「頭にディスプレイをつけて生活すると、なんかめっちゃ便利で楽じゃん」という未来は、はたして、あり得るのか否か。2003年とかから(20年以上前!)頭にディスプレイをつけて生活してたりしてた自分としてはこれはもう本当に気になるわけですよ。いやあ、2月2日の発売がたのしみですねえ!

2003年ごろHMDでいろいろやってた日記↑

Vision Proを買うぞシリーズ↑

@miro
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