魚と蟹屋 (夏の有明編)

洗われるたこ
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公開:2024/8/17

前々回、前回と水族の展示を巡ってきたが、おれはまだまだ魚を見飽きてなどいない。

(品川編は特に好評で 何人かから「自分が出掛けたみたいな気分になった」と感想を貰えた。そのように目指して書いたからとても嬉しい)

夏、とタイトルを付けられるのも今年はあと少し。

今週はちょっと変わった魚たちの展示がある海鮮屋の話をしよう。


ゆりかもめに乗って遥々やって来たのは有明駅。もう長く東京に住んでいるが、ここで降りるのは初めてのことだった。

そうして歩くこと数分、目的地は有明パークビルの2階…

10本足のあいつの気配。

そう。偉大なるシーフードレストラン「メヒコ」のお出ましだ。

なに、メヒコを知らない?

メヒコは、福島・茨城・東京に全14店舗を展開するフラミンゴと魚の海鮮料理屋。ここでいう「フラミンゴと魚」というのは、料理される対象ではない。

店に、ガラス越しに、奴らが待っているのだ。

魚はさておき、なんでフラミンゴ? と思うだろう。

調べると、どうやら遠洋漁業に行っていた創業者がメキシコを訪れ、当時の日本では目にする機会が少なかったフラミンゴの群れに感動した末 本物のフラミンゴを眺めながら食事をする飲食店のアイデアを思い付いて 帰国後に実現させてしまった、というような経緯があるらしい。

説明されても意味がわからないが、あらゆるきっかけなどはそういうものだ。

とにかく、メヒコはフラミンゴや魚 (店舗によって待ち受けている生き物は異なり、場所によってはサメもいる, 今回訪れた「東京ベイ有明店」は小-中型の水族のみ) を見ながら食事ができる、カニ料理をメインに据えたシーフードレストランだ。

かつて、おれの地元である仙台にもこのメヒコは存在していた。

子供の頃に何度か行った記憶がある程度で、いつの間に閉店していたのかも把握していなかったが、確か フラミンゴ館と水族館の2つに別れていたはずだ。どちらもでかい独立店舗で、いつも大勢の客で賑わっていた。いまやその跡地にはコート・ダジュールが建っている。

しかし、なにしろ魚とフラミンゴなのだから、忘れるわけがない。様々な生き物のいる深海の如く暗い水族館のような場所でカニピラフを食い、デザートには異常に硬くてでかいプリンアイスが出され、キッズセットのおまけとしてサメの玩具を貰ったことを、いまでも強烈に憶えている。

時を超え、おれは仙台から遠く離れてしまったが、再びメヒコに辿り着いた。

入店して早速出迎えてくれるのは、色鮮やかな魚たち。

生簀はともかくとして、おれは魚を見ながら寿司やら海鮮丼やらを食うようにできている構造の飲食店のことをあまり上品だとは思っていないのだけれど、ここはちょっと事情が違う。食べるための魚を見世物にしているわけではないのだ。

展示されているのは主に熱帯魚。解説表示などはないから何の種類かはわからないが。

白いサンゴに赤や黄色のボディがよく映えている。ちょっと密集度が高い。

カウンター席の前には大きな横長の水槽があり、深青の照明と相まってとても綺麗だ。

おれたちはこの日3人であったから、それを横目に普通のテーブル席に通される。こちら側にも小さめの円柱型水槽が点在していた。

席に着き、熟考の末におれたちが注文したのは「カニピラフ スペシャルセット (3,608円)」。店は予約客で満席であったが、このコースメニュー自体は当日の注文が可能だ。

まず初めに わさわさとしたワカメの食感が楽しめる「海藻サラダ」と、右の皿は「シェフのおまかせオードブル」。

蒸したムール貝と生のエビ、それからサーモンかと思いきや何かの貝 (赤貝?) の刺身。ソースはやや酸味のあるバジル系で、甘い海鮮とよくマッチする。

続いて「カニと海藻のスープ」。

ストレートな見た目でちょっとだけウケてしまう。海からそのまま汲み上げてきたかのようなワイルドな味わいだ。

そして「選べるサイドメニュー」としてチョイスした「カニクリームコロッケ」。

火傷するほど熱々の揚げたてだった。混ぜ物で誤魔化していない カニ本来の味と質量で勝負している。衣もざくざく系で満足感も良し。

このサイドメニューはカニクリームコロッケの他、「海老フライ&牡蠣フライ」「エビグラタン」「お造り三点盛り」の4種類から1つを選べる。他を食べていないから何とも言えないが、このカニクリームコロッケは持ち帰りたいほどに絶品だ。お勧めできる。

最後に堂々と登場するのは、この店のシグネチャー「カニピラフ (Sサイズ, 追加料金でサイズアップ可能)」。

メヒコに来たならば、何を差し置いてでも、このメニューだけは食べてみてほしい。単品では1,738円で注文することができる。テイクアウトの折詰もあるぞ。

カニの出汁が利いた米。薄切りのパプリカとスパイスの香り。上に乗っているたっぷりのカニは、同じ値段で剥き身と殻付きの好きな方を選べる。(おれたちはもう大人であるから、食べやすい剥き身のほうを選んだ)

セットにはソフトドリンクも付いてくる。紅茶やコーヒーとも迷ったが、おれが頼んだのは「メロンソーダ」。缶詰のチェリーがなんとも可愛らしい。

ここまで、コースだけでも満足できる量があったが、せっかく来たのでグランドメニューからアラカルトも注文してみる。

「極上ソフトシェルクラブの唐揚げ (1,738円)」。

おれの好物であるエビフライの尻尾を大きくしたような食べ物だった。殻は硬すぎずそのまま食べられるが、揚げてあるせいであろうか、ぱりっと香ばしい。その中にソフトでクリーミーなカニの身とやや苦味のある味噌。大人の片手ほどの大きさの1匹をカニ用バサミで切って3人で分けたが、それで1人前としてちょうどいいボリュームだった。

「特製カニ味噌甲羅焼き (1,078円)」。

濃厚なカニ味噌にほぐした身がトッピングされた贅沢な逸品だ。カニピラフに乗せて食べても美味しいと思う。

蒸したカニ。タラバでもズワイでも (当然毛ガニでも) なく、聞いたことのない何とかビッグクラブ…というような名前だったと思う。帰ってから公式ホームページや食べログを確認したのだが、限定メニューだったのか これについて記載はなかった。値段は5,000円ほど。

…カニ。どうしてこうも黙ってしまうものなのか。無心で殻を割り身を剝いていると、手元に集中してしまって会話どころでなくなる。

実は 大きなカニの爪を持たされてにこにこしているおれの写真もあるのだが、恥ずかしいのでここには載せない。にこにこしたおれを見たければ、おれをカニ屋に連れていくことだな。

…急に画質が悪くてすまない。でも、どうしても気になることが一つあった。

殻付きのカニメニューを頼むと、殻入れと共にフィンガーボール (写真手前) が出されるのだけれど、この水がどういう訳か黄金色に輝いていたのだ。無臭だったが、いったい何が入っているのか? 誰か知っていたら教えてほしい。

それはそうと、カニだ。食べやすいように殻には切れ目が入っているけれど、非常に硬くて割りづらい。他のカニとの味の違いは正直あまりわからなかったが、大きいだけではなく身もぎっしりと詰まっていて、期待通りの「ザ・カニ」といった旨みがあった。

これぞ正に求めていた王道のカニ。

存分にコースとアラカルトを味わって、さすがに満腹。

そういえば、思い出深き 異常に硬くてでかいプリンアイスはメニューのどこにも載っていなかった。

会計は全部で約20,000円 / 3人。今回はランチの時間帯だったが、夜に行ってもさほど値段は変わらないだろう。単品 (というか蒸しガニ) の占める割合が大きいので、コースなどを選べば比較的リーズナブルな構成にもできるはずだ。

レジのある入口近くにも水槽がある。

細長いアナゴのような謎の魚。

こっちを向いてくれるフグみたいな奴もいる。

誰?


帰り道。ちょうどこの日は近くの東京ビッグサイトでコミックマーケットが開催されており、炎天下に多くの人が列をなしていた。

窓からの景色が綺麗で楽しいゆりかもめ…には乗らずに、駅前から都営バスに乗って帰る。


メヒコは、やや高級でもありつつファミリー向けの大衆レストランだが、カニ尽くし、魚尽くし、フラミンゴ尽くしで「外食に来たぞ」という気分を満喫できる場所だ。(フラミンゴ館内はそれなりにフラミンゴ臭がするので苦手な人は注意)

都内には今回訪れた「東京ベイ有明館」と「浅草店 (残念ながらこちらは水族館タイプではない)」の2店舗しかないけれど、ぜひ行ってカニピラフとカニクリームコロッケを食べてみてほしい。カニを囲うときは無言になりがちだが、美味い飯に涼やかな内装で、きっと会話も弾むだろう。

おれたちは思い出を作るために日々を過ごしているのだから、記憶に残る食事をすることは決して悪いことではない。

それじゃあ、またここへ遊びにきてくれよな🦀🦀

@octopus
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