二人の共通点。いろいろあって、いろいろない。
でも、サプライズ好きなのは同じだったかもしれない。
「DuMoなら、あのまま放送を乗っ取るかと思ってた。」
「バカを仰るのね、そんなあなたみたいに破天荒じゃありませんよ。」
破天荒さにはことを欠かない、そんな腐れ縁に物申されるわけにはいかない。
自分でも何を悔しがっているのかわからないが、とにかく昔話をすらすらしてゆく。
「まず、ユメミノデンパというチビのように、ライブで勝者より目立ったことはない。」
彼女には前科が多すぎる。
メイクデビューの敗戦の一発目から、バックダンサーがコーラスするものだと勘違いして口ずさんだ。
それは結構だが、その歌で目立ちすぎて大層「バズ」をした。
目を付けられるぞ、と大いに叱ったはずだ。
「あらあら。」
「それから、ユメミノデンパというチビのように、ライブを意図的に荒らしたこともない」
重賞初勝利のスプリングステークスで、サイドに相談もせずにダンスにアレンジを加えて大いに目立った。
スタンドプレーもいいところだったので、皐月賞で目も当てられない負けをしたときは、それはそれはとても"すごかった"。
「やんちゃしましたねぇ。」
「そのうえ、ユメミノデンパというチビのようにあざといふるまいはしてこなかったし」
欠かさず、レース前のコメントに動物コラムを載せた。
欠かさず、違う動物のぬいぐるみを抱えていた。
欠かさず、パドックにも控室にも最初に入った。2人目が来る頃には地下バ道のゴミは跡形もなかった。
私が選手になるまで、体育館のカギは欠かさず彼女が管理していた。最初に入って、最後に出た。
欠かさず、カメラを見た。すべてのレースで。
欠かさず、欠かさず。
まるで、勝ちも負けも、流行りも廃れも、ノリもソリもないように。
ファンの声など、聞こえないかのように。
自分が自分のために走っているとでも言いたいように。
傍若無人なほどに。傲岸不遜なほどに。634mの高嶺の花のように。
「ふふふ……。」
「何より、ユメミノデンパというボケのように迷惑をかけることはしてこなかったつもりで。」
欠かさず20時に、寮長かトレーナーから電話が入る。
「今日はどこですか」
「大手町。」
「伝言はいかがしますか」
「"記者の追い払いまでライバルにやらせるんじゃないよ、ありがとうって言っておきなさいよ"、でどうかな」
「至極全うだと思います」
こういう、本来要領の得ない会話が成立するくらいに、脱走し続けた。
どんな猛獣の飼育員よりも苦労したと、冗談半分ではあるが、言ってよい権利がある。
何やってるんですかドチビ、帰りますわよと言えば
「お、競走だ」といい。
怪我しますよと言えば
急にしおらしくなって止まって。
それでパフォーマンスが出なくなったら、わがままが通らなくなりますよと言えば
「言ったその日に」
「Radio interference、電波干渉。大喧嘩したわね」
そうだ。
大喧嘩をした。
「MiNoは広告塔で、アタシは選手。」
「アタシは、目いっぱい青春したいよ。」
「目いっぱい青春したいから、目いっぱい無理してる。」
「足を止めるのも、友達を困らせたくないから。」
「帰るのも、友達にリスペクトをしてもらいたいから。」
「Meltyにはさすがに悪いと思ってるわよ。」
「だからね、DuMo、一つ聞かせて」
「貴女が言ったのは」
「『不甲斐なくてわがままを言えなくなるのと』『不甲斐なくても、わがままなまま愛されるようになるのと』では、意味が違う」
「『灰被りの女』と『シンデレラ』は違う」
「でしたか」
第一放送室の重い扉にもたれて目を閉じる。
「DuMoが間違っていないのは、たぶんそうだと思う。」
「DuMoは、MiNoにはないBroadcastを見せてくれた」
「でも、アタシは。」
「正しいかどうかで青春はできないよ。」
「素敵なことをして、青春をしたかったんだよ。」
「ニンゲンをわかろうね、デュオモンテ。君は優しい人だから。」
「ヒシヒシと、ハレの日に後悔してますよ、デンパ。」
至らなさに目を向けて、深呼吸をする。
「ううん、後悔なんて似合わない。」
「似合わない人になっちゃってたんだよ。」
「でも、「貴女という女」に後悔は似合わなくても、「あなた」になら似合う。」
「トゥインクル・シリーズを壊した張本人のくせに、まだ月面の裏側を知らなければ、満月すら見たことがない。」
「で、私は『月がきれいで、嫉妬しました』と言ったんです。」
「あれだけ、計算高くいようとしていたDuMoが、ロマンチストだったとは」
会話が丁々発止なのは、たぶん、同じチームにいるからじゃなくて、同じ課題に向かっていたからなんだと思う。
彼女は、ケガをした。
私は、ケガをしなかった。
でも、私は、それよりも深い傷跡が、文字通りトラウマになって今傷んでいるのだろう。