第3週「女は三界に家なし?」
今週のテーマは「他者に寄り添うこと」だったと思う。人によって違う生理の体調、よねのつらい過去、嫁としての花江の不満。それぞれ全然別の話のようで、「他者には理解できない痛み」の話だった。じゃあその痛みは自分ひとりで黙って引き受けるしかないんだろうか。たとえ解決しなくても、傷や痛みが癒えることがなくても、誰かにその痛みを打ち明け、受け止めてもらうだけで心が軽くなることがあるんじゃないか。そんなことが描かれた一週間だったと思う。
まずは朝ドラで「生理」の話が出てきちゃったよ、というびっくりの話。
休み時間に水泳行っちゃうような活発な寅子が、実は生理が重くて月に4日は学校に行けなくなる…という生理のエピソードが週初めの月曜日に描かれた。
朝ドラで生理の話出てくるの初めてじゃない?とびっくりしたけど、そもそも朝ドラじゃなくても生理の話が出てくるドラマってまだ数えるほどしか見たことがない。生理は隠すべきもの、という意識がまだまだ根強いんだろうなと思う。
とらつばの脚本家吉田恵里香さんはNHKの単発ドラマ『生理おじさんとその娘』(2023)の脚本も担当している。つい先日配信で見たのだけど、生理とそれをとりまく社会に向きあいながらも明るくてポップなレズビアンドラマでもあって、めっちゃめちゃよかった。ちなみに『カラオケ行こ!』の斎藤潤くんがラッパーになりたいヒロインの弟として出演しているのだけど終始ゴキゲンでかわいい。そもそもタイトルに「生理」って入ってるのがまず攻めてる。本作の監督さんが、とらつばの生理回の演出も担当されたそう。
NHKはこれまで朝ドラ直後のあさイチでも生理特集を何度かやっていて、さらに『生理おじさん〜』のドラマも制作し、そんな下地があったからこそ、満を持して朝ドラで生理を取り上げることができたんだな〜と思う。
タブーがあること自体がおかしいんだけど、とりあえずそのタブーを破るために少しずつ道を開いてきたNHKはえらい!
ほかのドラマでいうと、年末から今年始めにかけて放送されたテレ東の『SHUT UP』(2023)で生理の話が出てきたことが印象に残ってる。主人公たち女の子四人は貧乏学生で同じ寮に住んでいるのだけど、バイト代が入る前はほんとうにカツカツで生理用品が買えなかったりして、生理用品や鎮痛剤を互いに融通しあって共に生きている。貧困によって生理用品が買えないという個人の体の切実な問題の背後に、福祉の手薄な社会が透けて見えた。
そのほか、実話をもとにしたインド映画の『パッドマン』(2018)では、ケガレ思想が強く安価なナプキンが普及しない社会で女性たちがいかに不便な生活を強いられているかが描かれる。生理のせいで通学や進学を諦める女の子たちもいた。それはかつての日本も同じだった。
よねの過酷な生まれ育ちの話が本人の口から語られたのは水曜日の回だった。
わたしはとらつばは毎日2回、朝見て、夜寝る前にプラスでまだ見るというとらつばオタク生活を送ってるのだけど、水曜日の夜、2度目を見たときにOPでポロポロ泣いてしまった。「さよーならまたいつか!」の歌詞がよねの人生そのもののように思えたからだ。
仕事に疲れ果てて見上げた空、自由に飛ぶ燕を目で追い、その翼がほしいと願った幼いよね。欲しかった力はいつまでも得られず、くやしい惨めな思いをして血の滲んだつばを吐くよね。大好きな姉・夏と二度も別れを経験して心が砕けたよね。そしてOP映像には重そうなリアカーを引く少女が映る。あれはかつての夏、そしてよね。
わたしはほしい。今の私のまま舐め腐った奴らを叩きのめすことのできる力が。
よねと夏のエピソードは、たった百年前の日本にはこんな少女たちがたくさんいたんだという事実を伝えたい、なかったことにしたくない、という制作側の強い気持ちを感じる。事実として知っていても、映像で見るとその残酷さがいっそう際立つ。学校に通うこともなく親の言いつけ通り幼い頃から働いて何も知らない15歳の女の子がとつぜん都会の女郎屋で働かされることの、「女を辞める」と自分に誓って生きてきたよねが女として代償を支払わされることの、その残酷さを。
そんなよねの半生をよねの口から聞いた寅子が安易にわかったふうな励ましをしないのがよかった。すぐに思いつくような言葉でケアできるような話じゃなかった。
かつて『カーネーション』で糸子が戦争から帰ってきて心を病んでいる幼馴染・勘助を安易に励まそうとして状況を悪化させ、勘助の母から「あんたの明るさは毒や!」とののしられるシーンがあったことを思い出す。ただこれはヒロイン像のアップデートというよりも、寅子のかしこさや、相手に寄り添うことのできる力ゆえではないかなと思う。
それぞれにモヤモヤとした気持ちを抱えたまま舞台は寅子の家に移り、法廷劇で演じた「毒まんじゅう事件」の再検証のため、寅子たち女子部の5人、そしてはると花江も加わった7人でおまんじゅうをつくることになる。
よねと4人の溝は埋まらないまま、またはると花江もぎすぎすしている。だけど、だからこそ、7人が一つの卓を囲み、おまんじゅうを丸めるという共同作業をしている姿には不思議と癒やしがあった。丸くなっておしゃべりしながら手を動かす女たちはいつの時代も、どんな国にもいる。「男ってさ〜」みたいな話で梅子とよねとはるが同調していたのはおもしろかったし、のちに自分を特別視ないあなたたちとおまんじゅうを作りたかったのだという涼子様の言葉にも泣けた。
涼子の口から毒まんじゅう事件の改変が明かされ、意味がなかったと言ってさっさと帰ろうとするよねを、はるの言葉が引き止めたかと思うと、背後では花江が泣いている。優秀で強い人にはわたしのびしさがわかりっこない、と。自分で選んだことだ、弱音なんて吐いて何になる、と激昂するよねに、今度は寅子がお得意のハテ?で割り込む。弱音を吐いてもいい、それで何も解決しなくても、受け入れることはできる、と。
せめて弱音を吐く自分を、その人をそのまま受け入れる弁護士に、居場所になりたい
聞いてくれる人がいるから、人は本当のことを話すことができる。つらさを感じて弱音を吐く人の言葉を、まずは受け入れること。「盾みたいな弁護士になるの」第二週でそう宣言した寅子がまた一つ駒を進めたように見えた。
別れ際に寅子がよねに「私たちの前では好きなだけいやなかんじでいて」と言ったのもよかった。それは、あなたはあなたのままでいい、そんなあなた側に立つ、ということだ。つらい過去を話してくれたよねへの寅子なりのアンサーでもあった。「私たちの前では」という親密感にも、とまどったようなよねの表情にもグッときてしまった。
月曜日の生理の話が、めぐりめぐって最後には寅子とよねの関係を解きほぐすピースになったという物語の運びがすばらしかったなと思う。突然ひざまずいたよねにときめいたのはわたしだけではなかったはず😂
きっと自分から生理の話など誰にもしたことないだろうよねが、寅子のために店のお姉さんたちに話を聞いたのだろうと思うと泣けてくる。店のお姉さんたちも、頑なに女であることを全身で拒否するよねが、生理の話で相談してくれたのはうれしかったんじゃないか。そんなことまで想像してしまう。
よねを包む空気が少しでも柔らかく、明るいものになりますように。
さて来週から法学部編!寅子たち5人が並んで歩いてるだけで最高の絵面です!がんばれ〜!!!
*第2週シナリオブックの振り返り
この週は第1週ほどには変更は少なかったのだけど、削られた会話に良い台詞がたくさんあった。甘味屋で寅子たちが話してるシーンの、これはディスカッションだから互いの意見をリスペクトしましょう、という会話だったり、(これは脚本家さんがポストされてたけど)裁判後のあの階段のシーンで、殴らせれば良かったのに、とよねが言ったのに対して寅子が「殴られたら殴られた分だけ傷付くのに!?」と言う台詞も。あと枕に当たってる寅子の部屋にはるが入ってきて、物に当たるんじゃありません、と当たり前の小言を言うシーンもなんか面白いので見たかった😂