Apple Vision Proは「疲れる」のか

MIRO
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こちらのポスト(ツイート)に、けっこういろいろな意見がぶら下がっていたので、私の率直な感想をここにまとめておきます。

まず、HMDをつけているときの「疲れ」とは何か。これは3つの要因に分解することができると思います。

  • 重量物を頭へ搭載することに対する、首・頭への負担感

  • 純粋な目、視力への負担感

  • 視界がコンテンツに覆われていることによる酔い、ベクションによる疲労

人が「VRって疲れるんだよね」という場合、わりとこれらがごっちゃになっていることが多いです。冒頭にあげたポストでは二番目(目への負担感)のみに絞って語られているように感じますが、同ポストにぶら下がっているリプライではわりと一緒にされているようです。これらを混ぜると論点がぼやけますので、Apple Vision Proではいったいどうなのか、それぞれの要素に分解して現時点での自分の所感をまとめます。

重量物を頭へ搭載することに対する、首・頭への負担感

「重い」という意見がけっこう多いし、「締め付けて頭が痛くなる」といったレビューも見かけています。が、これは「人による」というのが現時点での結論です。西田宗千佳さんともこの話をしたのですが、私も西田さんも、Apple Vision Proに標準で添付されているソロニットバンドで「重さを特に負担に感じない」し、「長時間つけていてもつらくない」のです。

これは別に我々が提灯持ちというわけではなく、実際に装着しながら、Vision Proがどう顔に固定されているのかを分析すると理由がよくわかってきます。

Apple Vision Proのソロニットバンドはこのような構造をしています。後頭部はやわらかいニットでできており、ダイヤルで締め付け度合いを調整することが可能です。

そして、顔面・後頭部それぞれ赤色で示した部分の「面」で前後から挟むようにおさえ、顔面側のカーブが顔のカーブにそうようにして落ちないように支える、という仕掛けになっています。

このとき後頭部はニットなのでいいのですが、顔面側のほうが問題になります。この顔にあたる部分のパーツが実際の顔の曲面にフィットすればよいのですが、曲面がフィットせずあたりの強いところ・弱いところが生まれてしまうと力が一点に集中してしまったり、面で支えることができずずり落ちてしまいます。結果的に落ちないようより強く締め付ける必要がでてしまいつらい、なんてことになるのです。フィットしていれば、さほど強く締め付けなくても安定するのですが。

つまり、ここのパーツの形が装着者の顔のカーブに合っていれば非常に快適ですが、合わないととてもつらい。これが評価が分かれる理由だと思います。

このようにApple Vision Proは「顔面にあたる部分のカーブの形が合うかどうかが快適さにとってかなり重要」という構造です。そのため、購入時に装着するひとの顔の形状を3Dスキャンし、その形状からフィットするパーツを選択して購入するという仕組みになっています。パーツの形状は全部で28種類あるそうですし、フィッティングの結果合わなかったら一定期間交換も受け付けてくれます。どうもつらいのはこれが原因そうだ、というかたはパーツの交換を検討したほうがいいかもしれません。

なお、従来型の頭頂部にベルトがあるタイプのバンドも付属しています。こちらのほうが楽だというレビューも多いです(私はソロニットバンドで快適に装着できているのでこちらは使っていません)

純粋な目、視力への負担感

次に純粋な目、視力への負担感について。これは「疲れる」というレビューが結構多いです。視線で操作するというUIの関係上、何かを「注視する」という普段あまり行わない目のつかいかたをしますので、それが要因ではないかという意見があります。(この要因については私はあまり意識できていません)

が、実は私も当初は装着するとかなりの「目への負担」を感じていました。

装着すると「目にじりじりと軽い負荷がかかりつづけている」のを感じ、つけ続けていることが不可能ではないが、外すとものすごい解放感を感じる、というレベル感の負担です。数時間つけていることはできるけど、装着するのにちょっとした覚悟が要るかんじ。

ところが、これは単に視度の補正が合っていなかったためだったというのがわかりました。今朝遅れて届いた純正の補正レンズを装着したら、それ以後はこの「じりじりとした負荷」をいっさい感じなくなったのです。注視することによる負担、明るい画面を見ることによる眼精疲労、両眼視差による奥行き知覚とピント調節による奥行き知覚の差異による疲労などの要素は残っていますが、私は数時間つけていても問題ないレベルになりました。そうなれば、画素密度の高さによるリアリティも含め、目への疲労感は高くない部類かと思います。

総合すると、

適切な視度補正とフィッティング(顔と接眼レンズ間距離)が保たれていれば、おそらく一般のHMDと同等ないし同等以下の疲労感で済む。ただし、視線による操作という要因により目の疲れを感じるという人も多い

という感じでしょうか。

視界がコンテンツに覆われていることによる酔い、ベクションによる疲労

いわゆるVR酔いですね。この要素について言うならば、Apple Vision Proを普通に空間コンピュータとして使っているぶんには「ほとんどない」です。

背景に実空間の景色が見えており、またこの景色の奥行き含む補正処理はかなりの精度です。そして景色を表示する処理はかなりシステムの基盤に近い部分で行われているようで、止まったり引っかかったりすることがまずありません。なので描画は非常に安定しており「酔い」が無いのです。

非常に敏感な人はまた別かもしれませんが、比較的VR酔いに弱い自分でもいっさいの酔い感を感じませんので、ここはない、と言っていいでしょう。

まとめ

「重い」「つらい」「疲れる」という意見もよく出てますが、Apple Vision Proはフィッティングが合うかどうかで快適さがかなり変わります。なので、「人から借りた」「ちょっと試させてもらった」「転売業者から買った」人の意見はあまり参考にしないほうがよいです。とはいえ、高価なものなので自分の顔をスキャンして買ったはいいが合わなかった、なんてのも洒落になりませんから、このあたりが本当に気になるかたは、現実的には日本での販売が始まり、店頭で丁寧なフィッティングとデモ体験ができるようになってから、実際に自分で試して判断するのがよいのではないでしょうか。

アメリカでの販売時も、全Apple Storeで1人30分、非常に丁寧なフィッティングとマンツーマンの操作ガイド込みで販売されています。おそらく日本でもそういう販売体制になると思いますので、しっかりした体制での体験を待ちましょう。

これまでのApple Visionレビュー

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