※ネタバレ【日記07】「Mouthwashing」への追慕 延長戦

キョン
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公開:2025/2/2

【※注意※】

 ゲーム、「Mouthwashing」をクリアした前提のネタバレを含みます。


Q.オメーさぁ、まだ苦しんでるのかよ……?

A.はい。私はまだジミーのことで苦しんでいます。

 ここら あたりの 記事で 盛大に瀉血したはずですが、ジミーの項を読み返して思ってしまったんです。

 自己投影してる割に、私はジミーに割とキツく当たってるな……と。

 答えは単純です。私は、私に優しくない人間だからです。

 あとはアーニャの後にジミーについて書いたのも失策でした。罪への解像度が高い状態で書いてしまった。

 キャラクターに焦点を当てつつ手抜k……書くために、ストーリーを交えたのもよくなかったですね。「Mouthwashing」というゲームはジミーがやらかした話だから、彼を責める流れになってしまう。

 なので今回は、「他のキャラにはあったのにジミーにはなかった項目」を付け足す形で……なるべくジミーに自己投影せず、向き合ってみたいと思います。


 

 まず、今回の追慕の方針を明確に示したい。

(開幕から偉そうな物言いで申し訳ないが、大層な意図はない。単に私には「思い付きで長ったらしい文章を書いて結局自分でも本筋が分からなくなる」という悪癖があるため、自分のために羅針盤を設定したいだけだ。あと敬語ではないのは誰に向けたメッセージでもない個人的な追慕であるという意味と、文字数節約のためであり他意はない)

 私はジミーを許す、許さないという話をするつもりはない。ジミーの犯した罪や過ちには情状酌量の余地があるか否か、といった議論や提言をするつもりもない。

 仮に「Mouthwashing」というゲームが、クリア後にプレイヤーに対して「あなたはジミーを罪人だと思いますか? YesかNoで答えてください」と問いかける類の作品であったなら事情は違ってくるが……本作は違う。

 ジミーという哀れで愚かな男が、取り返しのつかない過ちを犯して終わる。言ってしまえばただそれだけの、残酷なほどに拍子抜けで救いがない、クソみたいな物語のゲームだ。流行りのトゥルーEDもない。自由に行動する余地もイベント差分もない。カクテル作るくらいか。

 プレイヤーに許されるのは「Wrong Organ」というマゾヒストかつサディストな集団が丁寧に作り上げた地獄(ごちそう)を、どのように切り分けて食べるか。それだけだ。

 そういう意味では正直、私は「Wrong Organ」という制作陣に好感を抱いている。偉そうに説教するでもなく、社会的なメッセージを込めたと自己主張するでもなく、プレイヤーのファンアートに喜び「もっとちょうだい!」と言っている程度だ。かわいいね。かわいい悪魔だ。

 プレイヤーが「Mouthwashing」という作品をどう受け取るか、その自由は許されている。(さすがにそれくらいは許してくれよという気持ちはあるが……)

 ならば私は、ジミーというキャラクターに向き合いたい。彼の苦しみを理解しようと努め、寄り添い、今度こそ悔いなく追慕としたい。

(だって正直もう辛いから考えたくないんだもん……)

 てなわけでジミー、相撲やろうぜ! はっけよーい、のこった!!!


Ex.ジミーの苦しみ

 ジミーはジミーなりに苦しんでいたと、私は思う。

 そうでなけりゃあんなやべぇイカれ幻覚見てたまるか死体とパーティーしてケーキカットして脚食わせパズルコンボは正直今でもかなり怖いぞコノヤローと茶化すのは程々にする。

 しかし作中では好き放題していたジミーが苦しむ理由とは何だろう?

 あくまで個人的な考えだが、彼はおそらく自分の心が分からなかったのではないか。それこそが彼の苦しみの根源ではないか、と思う。

 自分が何を思っているのか分からない。何を求めているのか分からない。だから何をすればいいのか分からない。

 幼稚といえなくもないが……これらを問われて即答できる人間は、案外少ないと思う。

 だってみんな、生きるだけで精一杯だからだ。クソポニー運送で働くジミーならば、「マジで生きるだけで精一杯」だったことだろう。

 だからジミーは、みんなが慕っているカーリーと同じ立場になった。カーリーの言葉を真似た。行動を真似た。「ちょっとムカつくくらい」にみんなから好かれるカーリーになる。カーリーになれば、今のなんだかいやな気持ちから逃げられるかもしれない。

 ジミーが仮初めの船長になろうとした動機は、同情すら覚えるほどに空虚であいまいなものだったのではないだろうか、と私は思う。

 ジミーは自分の心が分からない人間、と捉える根拠について語る。

 彼が自分の心情を具体的に語る機会は、作中にはほとんど無かった。せいぜいがコックピットでのカーリーとの会話だろうか。

 精神世界で幾度もジミーの内面は描写されるが、そこにジミー自身の言葉はない。一言もない。プレイヤーが考察するだけだ。(単純にゲームとして深みを持たせるための仕掛けという可能性もあるが)

(追記:包帯カーリーとポレとは精神世界で対話していましたね、すみません。無いってこともなかった。といってもほぼカーリーの言葉を繰り返しているもしくは包帯カーリーに言わせる形をとっていて、ジミーの精神世界であるはずなのにジミーの本心は非常に分かりづらいので……「ジミー自身の言葉は少ない」くらいの解釈で進ませてくださいすみません)

 「言葉ではなんと言うのか分からないけど、なんだか苦しい」

 ジミーはいつも、そんな居心地の悪い気持ちだったのではないだろうか。

 例えば精神世界の墓地。ダイスケの遺影が置かれ、ハイビスカスが供えられている。プレイヤーから見れば「ダイスケを死地に追いやった罪悪感の表れ」と読み取ることができる。

 だが、そこにジミーの言葉はない。ジミー自身は「ダイスケのことを思い出すと暗い気持ちになる」というぼんやりとした意識だけを抱いており、その意識の表れがあの精神世界なのではないかと私は考える。

 ジミーの感情に言葉が伴わない理由。それは、彼の周囲には「その気持ちは罪悪感だ」と教えてくれる人間が居なかった為ではないだろうか。

 他作品の例えになってしまうが、ジミーは金カムの谷垣に出会わなかったチカパシに近いのかもしれない。

 チカパシは親のない子供で、アイヌという共同体によって育てられた。衣食住について不自由していた様子はない。だが、心についてはどうだろう。

 チカパシは意図せずとも猟の邪魔をして、旅の道中でも一般常識に欠如が見られた。教える人間が居なかったからだ。愛情については推して知るべしだろう。

 幸運にもチカパシは、谷垣という男に出会った。インカラマッという女に出会った。方便として夫婦とその子と偽ることもあったが、谷垣がチカパシに向ける感情は父親の愛情そのものだ。

「ちんちんがむずむずする!! どうして? 谷垣ニシパ」

「それも勃起だ」

(ゴールデンカムイ 96話より引用)

 馬鹿なこと聞いてくるんじゃないと一蹴せず、そんな風に教えてくれる人間が近くにいたのなら。ジミーもチカパシのように、一人立ちできるほど強い大人に育ったのかもしれない。自分の心が分かる人間になれたのかもしれない。自分が求めるものが分かったのかもしれない。あの惨劇を起こさなかったのかもしれない。スケベなマタギが居たら違ったのかもしれない。今更だが例えが下品すぎるかもしれない。

 ジミーはゲーム終盤でも何とかする、俺たちならできる、とカーリーの言葉を繰り返す。だが結局のところ何をどうやってなんとかすればいいのか、全く分からなかったのだろう。教えてくれる人間がいなかったから。

 「環境が悪かった」という安易な責任転嫁はあまり好きではないが……だからといって「二十歳になったら成人、だから自己責任」と突き放す風潮も嫌いだ。環境という人生のスタート地点で遅れをとった人間にとって、あまりに不公平すぎる。

 恵まれない環境でも努力して、運よく立派な大人になった人間はいる。それがスウォンジーとカーリーだろう。だが、恵まれない環境で上手く立ち回れない人間だっている。もちろんジミーのことだ。

 ジミーは精神が子供のままだというのに、成人年齢に達したというだけで自動的に大人とみなされてしまった。そんな彼が正しく責任の意味を理解することもないままに、船員に対して責任を果たさなくてはならない船長という立場を得てしまった。

 作中ではジミーに責任を果たせと強いて、プレイヤーもそうすべきだと感じながら進める。そしてジミーもなんとかしようとした。がんばった。その結果があの結末なわけだが……。

 あいまいな概念に責任転嫁する論調になってしまうのが口惜しいが、本来ならば社会こそがジミーに対して責任を果たすべきだったのだと私は思う。この場合の社会とは福祉であり、周囲の大人であり、扶養義務のある家族である。

 かつてのジミーという子供に対して、社会は責任を果たさなかった。そうして出来上がってしまったのが、哀れで愚かなジミーという男だ。

 彼の生い立ちについて正確な情報は分からないが、荒れた環境で育ったことを推察させるセリフはある。そのあたりについて詳しく知ることが出来たらなあ、と思わなくもないが……現実はそんなものだとも思う。

 罪を犯し逮捕された人間を、茶を飲みながらニュースでぼうっと見る時間を思い出す。たいていの人間は他人が育った背景に無関心だ。

 ジミーが起こした惨劇は、そういった社会の怠慢が引き起こしたツケといえる。偶然に乗り合わせた船員にとってはとばっちりでしかなく、たまったものではないが。

 少なくとも現実の社会では、ジミーのような「取りこぼし」を生んでほしくない。そう願うばかりである。そうだ、選挙に行こう。

 残念なことに念願が叶って、ジミーはこども店長ならぬこども船長になってしまったわけだが……個人的に疑問に思う点を掘り下げたい。

 船長になって権力を振りかざしたいだけならば、クソ船のクソ責任など果たす必要などない。銃を使って脅せばいい。暴力は全てを解決する(我ながら言ってて物騒だなあと思うが)。

 あれほど嫉妬したカーリーと同じ、船長というハシゴのてっぺんに酔いしれたいならば、クソ責任など他の船員に丸投げすればいい話だ。あくまで私個人の価値観だが、ぶっちゃけその方が「権力ゥ〜! 振りかざしてるヒャッホーー!」って感じがする。

 だが、ジミーはそれをしなかった。やり方は間違いしかなかったが、彼は彼なりに「何とかしよう」としていた。

 私なりに理由を考えると、ジミーは権力だけが欲しかったのではないのだと思う。権力はただの手段に過ぎない。

 ジミーが本当に欲しかったのは、権力を手にすることで得られる人の心だったのではないか。偉ぶりたいわけではなく、肯定してほしかった。認めてほしかった。尊敬してほしかった。自分の心を満たしてほしかった。

 今までは見上げるだけだった「ハシゴのてっぺん」にこそ、自分の居場所があると信じたかった。

 だからカーリーの言葉をなぞり、行動もなぞった。クソ責任を果たすためのクソ雑用をこなした。カーリーと同じように。カーリーのようになれば、みんながカーリーのように慕ってくれると思ったから。

 「ジミーに、ここに居てほしい」。

 そう言ってほしかったから、彼は責任を果たそうとしたのではないだろうか。

 だとするなら、ジミーという男は本当に孤独で哀れな人間だと思う。

 本当に欲している真心こそ、自作自演の事故やカーリーを悪者に仕立て上げることで手に入るものではない。アーニャの体を我欲で思うままにするなどもってのほかだ。

 スウォンジーのように地道な努力を続けるか、カーリーのように無理をして働くか……二人の様子を見る限り、これらの手段はやめておいた方がいいと思うが。

 先に述べた通り、ジミー本人も「自分が求めているもの」すら分からなかった可能性もある。

 それなら単純に、助けを求めればよかった。

 苦しいと言えばよかった。辛いと言ってよかった。

 カーリーに言えば、忙しい時間の合間を縫ってでもマズいケーキを一緒に食べてくれたことだろう。彼なら親身になって話を聞いただろう。

 スウォンジーに言えば、家に招いて美味しい手作りパエリアを振る舞ってくれただろう。スウォンジーの妻と犬とで楽しい食事を楽しめたに違いない。

 アーニャに言えば、カウンセリングをしてくれただろう。そこから始まる縁もあった……可能性もなくはない(アーニャに暴力を振るう前ならば)。

 ダイスケに言えば、たぶん一緒にビーチでナンパでもしてくれただろう。(個人的にはナンパに失敗し、二人で「やっぱ男同士が気兼ねなくて最高っすよ!」とカクテルを飲みながら傷を舐め合うオチを希望する)

 自分の弱さを晒すことは、生物として勇気がいる行為だ。簡単にはできないと理解できる。だが少なくともスウォンジーは、「ジミーが自分自身を見つける時」を待っていたように思う。まだスウォンジーの株を上げる。

 それに「社会はクソ」であっても、「社会を構成する人間すべてがクソ」ではない。少なくともタルパ号の船員は、良い人間になろうとしている善い人だった。他人を思いやることができる、優しい人たちだった。だから私は今も苦しんでいるわけだ。

 品性が疑われるから表立っては言わないが、私は「Mouthwashing」に倫理的な意味で肩透かしを食らった。空腹を理由に争いカーリーをハンニバり、性欲に任せてアーニャにアハンでアカンなことをするパニックホラーサバイバルだと思っていた。(結果だけ見ればあながち間違いでもないのが、なんともモヤモヤする……)

 だが彼らは己の苦しみを、他人を苦しめる理由にはしなかった。死を前にした極限状態にあって、彼らの在り方は無害な逃避ばかりで善良ですらあった。

 だからジミーはタルパ号の善き船員たちを信じて、勇気を出して、「たすけて」と言ってよかった。

 言ってよかったんだよ、ジミー……。


 私は今度こそ、ジミーという哀れで孤独なかつてのこどもに向き合い、追慕とすることができただろうか。

 自信はないが、自分の心には区切りがついた気がする。

 ジミー、またいつかお前に会えたらいいなあ。

 ポニー運送の宇宙船以外で。

 【取組結果:ジミー● 決まり手:送り出し】

 おわり

 

@oreoreaibo
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