『虎に翼』第5週ふりかえり

hinata625141
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第5週「朝雨は女の腕まくり?」

今週の週タイトルのことわざは初めて聞いたので意味を調べてみたら、

朝の雨はすぐにあがるから、女の腕まくりと同じようにこわくない。

だそうです。いちいちイラッとしますね😂 ことわざも時代に合わないと消えていくんだな〜


さて今週は寅子の父・直言も逮捕された大汚職事件「共亜事件」の裁判にぐっと集中し、とても見やすい週だった。先週のホモソーシャル週のように細かなエピソードを重ねてひとつのテーマを見せる週もあれば、今週のようにひとつのドラマをどーんとストレートに見せることもある。週によっては別のドラマを見てるようでもあり、単調に陥らないその振り幅も良いな〜と思う。

今週、共亜事件を通して問われたのは司法とはなんぞやというけっこうむずかしい問であり、かつそれは寅子の法曹人生に大きな影響を与えることになりそう……というお話だった。

共亜事件は、モデルとなった帝人事件同様、検察が被疑者の自白頼りに客観的な証拠を固めることなく立件した、検察の暴走ともいえる事件だったのだけど、こういうことが新憲法下ではなくなったのかというと全然そんなことはなくて、自白頼りの警察・検察の捜査方針は戦後も続き、数々の冤罪事件を生んだ。そのなかでも有名な足利事件、飯塚事件をモチーフとしたドラマ『エルピス』(2022)で注目された俳優さんこそ、ヒロイン寅子の父親であり、この冤罪事件の被告人でもあった直言を演じる岡部たかしさんだった。はるさんの石田ゆり子さんと同じように、岡部さんのキャスティングにもまた過去の名作ドラマへのリスペクトを感じてドラマ好きとしてはうれしい。権力に迎合しながらあるターニングポイントから反骨心を見せるのもエルピスの村井さんを早回しで見ているようでもあった。

罪を被ると決めていた直言を翻意させたのは「そんなんじゃまた娘が襲われるぞ!」という記者・竹中の、ヤジともゲキとも見える一言だった。竹中は法曹の世界に入ってこようとする女子学生たちを揶揄するような記事を書いては寅子を激怒させていたが、父の無実を信じて動き回る寅子に「ガキの出るまくじゃねえ」と釘を刺し、実際に襲われかけた寅子を助けに入ったりもしてくれた。

彼はこの時代らしい女性差別観を持った男性でもあったが、一方で戦争に向かっていく国の中で国家権力の増大に苛立ちを感じ、ひとり泥を被ろうとする直言に義憤を感じていたんだろうと思う。人にはいろんなレイヤーがある。論点Aでは同調できなくても、論点Bでは同じ方向を目指すことができるかもしれない。それはかつて寅子がよねに向かって、考えが違っても一緒に戦うことはできる、と言ったこととも繋がる。なによりキャラクターを多面的に描くのは物語が豊かになっていい。

いくら証拠の矛盾を突きつけても自首一本で押し切ろうとする検察の主張に風穴を開けたのは寅子の思い出した監獄法施行規則第49条。争われている主題から一見離れたような法律を引用し相手側の主張の矛盾や法律違反を突く、というのは韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(2022)でも何度か見られた。ウ・ヨンウは記憶力がずば抜けているのであらゆる法律を引用できるという設定だったけど、寅子が穂高らベテラン法曹人たちよりも早くこの法律を思い出し検察の矛盾に気付けたのは、優三さんが貸してくれた刑法のノートを直近で学んでいたからということかもしれない。このとき寅子がくどくど説明せずに「監獄法施工規則第49条」とだけ穂高に伝えたのもよかった。それは法律を熟知したものだけに通じる暗号のようだった。

主任判事ではなかったが、判決文を書いたのは桂場だった。裁判が終わって寅子に礼を言われた桂場は「法を司る裁判官として当然のことをしたまで」と冷たく返したが、ここから始まる2人のシーンが本当によかった。

寅子は「法律は道具のように使うものじゃなくて、法律自体が守るもの」なのではないかという自分なりにたどり着いた答えを話すと、桂場は意外そうに「君は裁判官になりたいのか」と問う。

寅子の考え方は弁護人より裁判官に向いていると感じた桂場はそれを素直に口に出してしまったのだろう。依頼人を守るのが第一の弁護士は清濁合わせ飲まざるを得ないこともある。法とその理念を第一とする裁判官の資質は実は弁護人のそれとは相容れないものなのかもしれない。

しかし桂場は「ご婦人は裁判官になれなかったね」と自ら上げた幕をあっさり閉じてしまう。まだ裁判官と弁護士の資質の差などについてはわからないだろう寅子は「はて」と今は首を捻るのみだ。

その寅子がやがて戦後、男女平等の新憲法を頼りに自ら裁判官登用の道を切り拓かんとす、その決意をぶつける相手が他でもない桂場であると私たちは知っている。桂場がどう返すのか、今から楽しみだ。

また、寅子との会話の中で桂場が「続けて」と言ったのもすごくよかった。師である穂高の口調が移ったのだろうと思うけれど、桂場は穂高よりリアリストであるだけで女性を下に見る人間ではないということが改めて確認できる。そして何よりこの「続けて」は、いつか寅子が口にするのだろうと、確信めいた期待がある。その日が来ることを思うとそれだけで胸熱だ。

そんなこんなでグッとくる2人の会話だったのだけど、それはそれとして桂場さん、やっとお団子食べられてよかったねーという気持ち😂 甘党で酒に弱くて仕事には潔癖でロマンチストな桂場さん、これからも推します!!!


第4週シナリオ振り返り

この週はほぼ台本通りで削られたシーンやセリフも少ない印象。

読み返して改めて梅子さんの

人は持ってる顔はひとつじゃないから

というセリフはこのドラマのイズムだな、と思った。


@hinata625141
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